ネットのライオン

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肖像を刻む

小さな巨人の肖像」という本

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 小さな巨人の肖像の真の著者は、写真を撮り、世に名を残すこともなく死んでいった世界各地の無名のカメラマン。著者としてのチュリ・クプフェルバーグとシルビア・トップは写真を集めようとし、それらを実際に収集しきったものたちだ。

 

沢木耕太郎が本を充分すぎるほど愉しんだ理由

 彼は集められた写真が「作品」として完結していなかったため、読み手に空白を埋める余地が与えられたからだと言っている。

 また、肖像を描くとはどういうことなのか考えるのに強い刺激になったそうだ。

 

文章によって人物の肖像を描く

 彼はノンフィクションによる肖像は、無数の点で背景を塗りつぶすことによってその姿を浮かびあがらせようとする絵に、似ていると言う。

 しかし、そのような方法で人物を捉え、核心を射抜くことができるのか、疑問が常に残るようだ。

 接線と覚しき直線のみで円を描こうと虚しい努力に似ている。無限に円に近くなっていくが、真の円にはなりえない。そのようにしてできた肖像も、接線でしかないと考えているようだ。

 

創造者は創造物に対して創造主たりうる

 彼はミケランジェロダビデ像と4体の「捕虜」像を目にすることで、平凡な定理である「創造者は創造物に対して創造主たりうる」ことに気がついたそうだ。

 また、ノンフィクション・ライターとしての彼は創造主としての立場を許されていないことに心が錯綜したそうだ。

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 わたしはノンフィクション・ライターとして仕事をしたことはないが、創造主としての立場を許されない仕事を続ける気持ちは寂しいものだと考えてしまった。

 続ければ誰もが役者として舞台に立ちたいと思う気持ちがあっておかしくないと思っています。そのため、彼は創造主の立場に立つためにニュー・ジャーナリズムや私ノンフィクションという手法に近づいていったのかもしれない。

路上の視野〈1〉紙のライオン (文春文庫)

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